79 いたずらぎつね

79 いたずらぎつね

その一

 昭和のはじめ、青梅橋のあたりは"山"と呼ばれる雑木林の続く淋しいところでした。このあたりへは、狭山丘陵一帯にすんでいたきつねが、しばしば人を化かしにやってきました。
 ある人が立川へさつまいもを売りに行き、帰りには青梅僑のあたりで暗くなってしまったそうです。まっすぐ北に向って歩いているつもりなのに、いくらたっても家に着かないのです。きつねのしわざで同じ道をぐるぐる廻っているのでした。

 そんなこわいことがよくあったので、若い娘さんなどはこのあたりで誰かと通りあわせるのを待って帰ることが多かったそうです。p173

その二

 狭山のあるおじいさんが、こんな話をしてくれました。
 ある日、帰りが夜になってしまいました。砂の川かち南には家は一軒もない頃のことで、森や畑だけの淋しい所でした。きつねの好物の魚を持っていたので、とられないように急いでいました。
 ちょうど今の大和病院のあたりまで来た時です。突然生あたたかい風がヒューと吹きつけて、提灯の灯が消え、一瞬真暗やみになりました。目をこらしてみるとしっかリ持っていたはずの魚がなくなっています。キョロキョロしてみても風のように速いきつねにとられてしまったのです。
 当時は魚は大層なご馳走でしたから、「ヤラレタッ」と、とてもくやしかったそうです。

その三

 石川に"前坂の山"と呼ばれる山がありました。昔、ある人が今は貯水池になった石川から表の嫁ぎ先に行った帰り、夜中の十二時頃このあたりにさしかかりました。すると、山ののうてん(てっぺん)を灯が並んで通るのが見えました。「これがきつね火かな。」と思いました。まみえ(眉毛)をぬらすと化かされないというのでやってみると、なるほど、化かされることもなく無事に家に帰り着きました。狐火を見た時は、背中がゾクゾクしてきたといいます。ゾクゾクする時は、きつねは自分のうしろにいるのだ、とよく言われました。気がつくと持っていた提灯はバラバラになっているのです。きつねはローソクが好物だそうで、提灯の中のローソクはきれいになくなっていたということです。p173~175